言の葉の火葬場

心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく、書いて、吐いて、そうしてどこにもいけない、言葉達をせめて送ってあげたい。そんな火葬場。

2017-01-01から1年間の記事一覧

老人と旅人

あるところに、一人の老人がおりました。老人はかつて旅人でした。7つの海を越え、8つの大陸を渡り、9つの大砂漠を跨ぎ、そして、無数の山や草原や川や町や村を歩いてきたのでした。 老人が歩いたことのない道は、もはやこの地上には、一つもありはしないの…

薄荷色の日

私は砂時計を見ている 陽の当たる窓際に置いてある砂時計 不可逆な時間を可逆的に測る砂時計 クオーツのように透き通る秋の光線 薄い薄荷色に縁取られた揺蕩う焦線 ポプリは君の香り 私はプラムを齧り 君は静かにページをめくる 薄荷色の風が流れ込み 私はた…

星明かりとエーテルに関する幾つかの考察

そこは水で満ちていました。 しかも、恐ろしく軽く、恐ろしく透明な水でした。 あまりにも軽い水でしたから、波も立ちませんし、泡もたちません。 ですから、波が砕けるシャワシャワザブザブという音も、泡が弾けるブクブクパチパチという音も聞こえません。…

今日という日

灰の塔 火葬された心ない人間の骨 鈍色の猫の眼球 消えかかったヘッドライトの光 泥の海で泳ぐ魚 その嘆息は真珠のごとく 仮面の男 仮面の女 血涙の跡はひび割れ ガサガサと風を鳴らす 西から登る太陽が金色の矢を放ち 朝を歌う小鳥の心臓を射抜く 積まれた…

春霞の味

「ねぇ、水素よりも透明な水で作ったウイスキーはどんな味がするかしら。」 貴女は少し眉をひそめ、呆れたように、こう返した。 「海の水なのよ。しょっぱいに決まってるじゃない。塩味よ。」 僕は、夢がないなぁ、とため息まじりに呟いた後、鈴の音の様な味…

bisque doll

透き通る磁器の肌 紅く燃える薔薇色の唇 夜空を写したガラス玉の瞳 朝露でたっぷりと濡れたまつげ I'm your father. 微笑んでおくれ、夜の森の静けさで。 I'm your mather. 泣いておくれ、蜜の様に甘い声で。 You are the daughter. ただ、一握りの感情も持…

幼馴染と変曲点

告白して、恋が成就したからって、その瞬間から恋人同士になるわけではないと思う、そう、あなたは言っていた。 人間の関係は不連続ではないのだから、告白した瞬間が特異点になって、ステップ応答のように、関係が変わることなんてありえないとかなんとか、…