言の葉の火葬場

心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく、書いて、吐いて、そうしてどこにもいけない、言葉達をせめて送ってあげたい。そんな火葬場。

2016-01-01から1年間の記事一覧

雨やどりのクリームソーダ

昨日の天気予報どおり、今日は今朝からずっと雨が降っている。 私は1人、早めの夕飯を済ました後、傘を2本持って駅前の行きつけの喫茶店に入った。 「お待ち合わせですか。」 そう、声をかけてくれた若い給仕さんは、最近入ったばかりなのだろう。顔に覚えが…

ちらし寿司

朝起きると、泣いていた。 きっと、昨日街で見かけた、可愛らしいカップルのせいだ。 女性の手を一生懸命握って、にこにこしている男の子。 女性の方もなんだか、誇らしげな顔をしていた。 私は祖母を亡くして随分と時間が経った。 成人した姿を貴女に見せる…

赤ずきん

私は赤ずきん。 あなたはおおかみ。 こんな幼気な私を、丸呑みにするのかしら。 私、肌はみずみずしいのよ。 マスカットみたい。 私、お腹も柔らかいのよ。 ママの作るシフォンケーキみたい。 私の細い首にその犬歯を突き立ててちょうだい。 鳴呼、早く、私…

甘い毒

その香りは私の心臓を鷲掴みするの。 貴方がね、近くにいると喉が渇いてきて、空調が効いているのに汗が滲んでくるの。 汗の匂いがしていないかしら、私は天女ではないので、きっと毛穴も見えてしまうわ。 睡眠不足のせいね、頬骨のてっぺんに出来た小さな発…

終世記

第一日 彼がやってくる。 死の病原を撒き散らしながら。 第二日 彼が街を蹂躙していく。 たくさんの死体と瓦礫と孤独を生み出して。 第三日 彼が全てを焼き尽くす。 死体も瓦礫も孤独も、そして悲しみさえも、その一片も残さず、灰すら残らない。 第四日 悲…

蜂蜜とドーナツ

蜂蜜を頂戴。 ドーナツにかけるの。 キスして頂戴。 ドーナツのあなの中、甘い秘蜜で一杯にしたいの。 そうしたらね、お礼に、蜂蜜のかかったドーナツをあげるわ。

ライラック

愛する者を失うのが、これほど恐ろしいものであると、実感できたのは、あの、汽車の中だった。 君との友情が、本当にこのまま、永遠に失われてしまうとしたら、そう考えると、パイプをくわえた口が、パイプを持つ手がぶるぶると震えた。 私は私の怠惰を呪っ…

嫌いなものと好きなもの

あたし以外の誰かに向ける、あなたの微笑みが嫌い。 あたし以外の誰かに向ける、あなたの優しさが嫌い。 あたしじゃないあの子に向ける、あなたの好意が嫌い。 あなたがあたしに向ける、好きという言葉が一番嫌い。 そうして、あなたを大嫌いなあたしがあた…

銀木犀

ねぇ、とあなたが私に声をかける。金木犀の甘い香りがするわねと、嬉しそうにあなたが言うので、金木犀は銀木犀の突然変異種なのだと私はあなたに教える。 少しの沈黙の後、甘く涼やかな風がざあっと吹く。 香りも色も違うけれど、元は同じ花なのね、なんだ…

乱痴気騒ぎ

さあ、靴を鳴らせ。 地面を踏み抜いて。 さあ、喉を鳴らせ。 渇きを血で潤して。 さあ、手を叩け。 ありったけの憧憬を込めて。 荒れ狂う喝采と渇望と賛辞のなか、 この、乱痴気騒ぎの道化となれ。 この機をのがすな。次は遥か4年後だ。

綿菓子

どうか、真綿で首を絞めて、優しくキスをして。それから、唾液も脳髄も優しく奪って。 私は静寂を手に入れて、あなたは悲しみを失って。 私たちの恋は綿菓子で、甘くて、甘くて、そして、決して何も残らないの。

林檎とりんごとリンゴ

林檎はきっと甘酸っぱい貴女との初恋の味がする。りんごはきっとあまい、しあわせなあなたのあじ。リンゴはきっとすりリンゴがおいしいの。

恋文

私は貴女に愛されたい。 それが叶わぬのならせめて、貴女の手で私の細い、華奢な首を、花を摘むように優しく手折って、この少しばかりの希望を、摘んで欲しいと、そう思うのです。

コミュニケーション

ああ、早く、あなたの脳とわたしの脳を繋いでください。そうしたら、意識も共有されるのかしら。あなたがわたしに、わたしがあなたに。きっと、好きだとか、嫌いだとか、そんな下らない意識はとろけて、無くなるのでしょう。 きっとね、幸せよ。