言の葉の火葬場

心にうつりゆくよしなしごとを、そこはかとなく、書いて、吐いて、そうしてどこにもいけない、言葉達をせめて送ってあげたい。そんな火葬場。

春霞の味

「ねぇ、水素よりも透明な水で作ったウイスキーはどんな味がするかしら。」

貴女は少し眉をひそめ、呆れたように、こう返した。

「海の水なのよ。しょっぱいに決まってるじゃない。塩味よ。」

僕は、夢がないなぁ、とため息まじりに呟いた後、鈴の音の様な味かなぁ、なんてさらに独り言を続ける。

鈴の音の味、中々言い得て妙なのではと、自画自賛しつつそのフレーズを頭の中で反芻していると、貴女はタバコの火をもみ消して静かにこう言った。

「でも、本当に、酸素よりも軽く、水素よりも透明な水があったとして、ピートをたっぷり焚いて作ったウイスキーなら、そうね、春霞の様な味がするんじゃないかしら」

僕はすっかり感心してしまった。なるほど、春霞の味か。

「飲んでみたいな。」

僕はタバコの煙を吐き出しながら、また、ぽつりと呟いた。

タバコの煙が、まるで、春霞の様だった。