ライラック
愛する者を失うのが、これほど恐ろしいものであると、実感できたのは、あの、汽車の中だった。
君との友情が、本当にこのまま、永遠に失われてしまうとしたら、そう考えると、パイプをくわえた口が、パイプを持つ手がぶるぶると震えた。
私は私の怠惰を呪った。
私は私の君への愛を実感した。
私は私の君への愛を疑った。
そうして、私は今まで信じてきた私の知識と、記憶と、観察力がたった一人の友人を守れなかったことに絶望した。
ただ、君が心配であった。
それでも、客観的に、冷静に、状況を整理し仮説と論理を組立てるために、坂道で車輪止めを失った馬車の車軸のように慣性に従って、転回している私の脳一部が、狂おしいほど、恨めしかった。
熱を持った有機的な感情と、どこまでも冷たく無機質な推理が脳の中で散乱し、ハレーションを起こし、そのまぶしさで涙を流した私の瞳は、確かに車窓からライラックの存在を認めた。